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第2回 ミャンマースタディーツアー報告

2014年2月26日〜3月2日に行われたミャンマースタディーツアーの活動内容をご紹介します。

 私(荒木)がミャンマーの教育に関わり始めて5年が経ちました。この5年の間に軍事政権から民主化への流れになり、またヤンゴンには多数の外国資本が入ってくるようになりました。

 ミャンマーの教育、とくに私たちが支援を行っている僧院学校は、暗記中心の教育になっています。また、僧院学校では大学卒ではあるけれども教育学を学んでいない教師が教壇に立ち、授業を行っています。

 実はここには大きな問題が隠れています。民主化に方向性が変わってきているということは、つまり市民一人一人が声を持つ権利を有することと同意であり、かつ意見の違いを対話によって調整していく必要性があるということです。もはや何かを覚えておけば済む教育では太刀打ちできなくなってきます。また、暗記中心の教育を受けてきた世代は、それ以外の教育の方法を知らないというもの問題です。知らなければ受けた教育を下の世代に繰り返すという教育の方法の再生産という問題。つまり民主化の流れとは逆行した暗記中心と、従来の教育方法の再生産という二重の問題をクリアしていく必要があるのです。

 そこで私が着目したのが僧院学校の教員に対して、教員養成を行っていくということです。子どもたちが考えていくための授業づくり、他人と協力する授業とはどのような授業か、そのために教師は何をしなければならないのか、そのようなことをテーマに活動を行っています。子どもにいい影響を与える教師の育成、それが私たちの僧院学校教員養成のミッションとなっています。

 今回は、EN Lab.として2回目の現地訪問です。以下は、現地入りしたEN Lab.メンバーの感想を踏まえてのレポートとなります。活動内容、そしてそれぞれの気付きや学びを中心に読みすすめて頂けると光栄です。(荒木寿友)

■Dream Train訪問

 

 活動1日目、最初に向かったのはヤンゴン市内に位置する「Dream Train」という児童養護施設です。NPO法人ジャパンハートが2010年に開設したこの施設は、人身売買をブロックし、人身売買の結果として起こるHIV感染の予防を目的として作られました。施設には人身売買に巻き込まれる可能性のある子どもの他、親から虐待を受けたり、学校に行けない子どもたち187名が暮らしています。

 まずはスタッフの方から「Dream Train」についての簡単な説明を受け、施設の中を案内して頂きました。建物は男の子が暮らす棟と女の子が暮らす棟で分かれており、他にも食堂や運動場などが併設されています。壁にはポスターや子ども達の描いた絵が飾られており、子ども達は思い思いに時を過ごしていました。

 一通り施設の見学が済んだ後は、子ども達が遊んでいるプレイルームへ。始めはお互いに緊張している様子でしたが、気が付けばメンバーそれぞれ子ども達の輪に入り、カードゲームやビー玉転がしなど一緒になって遊んでいました。目が合うとはにかんだ笑顔を見せてくれる女の子と、とにかく元気いっぱいで人懐っこい男の子、言葉が通じなくても「仲良くしよう!」という想いは必ず伝わります。その後、子ども達から歌とダンスの披露がありました。歌ってくれたのは「さんぽ」や「上を向いて歩こう」など、歌詞はもちろん全て日本語です。元気よく大きな声で歌ってくれる姿に私たちも思わずにっこり。またダンスは立ったり座ったりジャンプしたりと動きが速く、一緒に踊ったメンバーはくたくたになっていました。それでも最後はみんなでポーズ、素敵な時間を過ごすことができました。

 Dream Trainで働くスタッフの中には調理専門や、洗濯専門の方々もいるそうです。187名の子ども達を育てるのは一苦労、それでも皆さんが暖かい眼で子ども達の姿を見守っている姿がとても印象的でした。 また訪れることを約束し、Dream Trainで子ども達と別れた後はヤンゴン市内を散策することに。立派なビルがいくつも並ぶ通りを一つ曲がると、道端には軽食・洋服・本などの露店が所狭しと並んでいます。急速に発展を遂げる中、アジア特有の雑多な雰囲気が入り交じった町並みは不思議な魅力を持っていました。

 

 その後、有名な寺院「スーレーパゴダ」「シュエダゴンパゴダ」を訪れました。メンバーのほとんどが初めてのミャンマー渡航であったため、初めて見るパヤ(仏塔)に大興奮。夜になるとライトアップされ、一際黄金色に輝くパヤの美しさは圧巻の一言でした。「シュエダゴンパゴダ」では高さ100mの大きなパヤを中心に、たくさんのパヤがそびえ立つ境内を歩いたのですが、パヤに向かって熱心に頭を下げる人々の姿をよく見かけました。仏教の信仰者が多いミャンマーの人にとって、祈ることは日常であり、大切な時間なのでしょう。私たちも彼らに混じって祈りを捧げ、ゆっくりとした一時を過ごしました。

 こうしてコンテンツ盛り沢山、充実した1日を終えることができました。(小川麻綾)

■Ko Tarさんとの出会いと学校訪問

 TED Talkという世界的に有名なプレゼンテーションイベントに来日して出演されていたKoTarさん。代表の荒木がご友人の紹介で知り合いになったことがきっかけで、今回のミャンマー訪問でEn Lab.メンバーはお会いすることが出来ました。私達も事前に彼のプレゼンテーションを見て勉強。「お国柄的にミャンマー人は時間にルーズ?」と言われているようですが、彼は予定時間よりも早く到着して笑顔で私達を歓迎して下さいました。

 そして、KoTarさんが経営している(校長をしている)学校を訪問見学。訪問して驚いたことが、彼の経営している学校の建物が私達が想像以上に立派なものであり、幼稚園から高等学校を持つ私立総合学校であるということです。建物は洋風造りで素材がしっかりしたものであり、理科実験室やコンピュータ室、洋書も置いてある図書館、日本の学校に負けない体育館など、日本と同等、もしくはそれ以上の様々な役割を持つ部屋がありました。「おそらく、小学生の頃に通った小学校よりも立派な建物だったんじゃないか」と思うぐらい立派な学校です。

 建物だけではなく教育内容も充実しているようで、大学で教育を勉強した先生達が子ども達を教え、教育論や発達段階を考慮し、子ども達が自ら考え学んでいく教育が行われているとのことでした。私達が訪問した僧院学校の教育は、子ども達に文章を音読・暗記させるなどの「子ども達が得た知識を生活でアウトプット出来ない」授業が主であり、いかにこの学校がミャンマー国内において進んだ教育方法を展開しているのかが分かります。

 さらにこの学校がすごいのが、特別支援のクラスもあり、その子ども達一人一人に合った教育がされているという点です。特別支援のカリキュラムは、担当教員が子どもの要望や障害のレベルに応じて決めているとのことでした。

  もうね、普通の日本の学校と正直なんら変わりません。このレベルの学校に通うための学費が、年間一人日本円に換算すると15万円程度。これに加えて、教材教具費がかかります。日本人の感覚からしたら一見安いと感じるかもしれません。しかし、人口の6~7割程度が一日1ドル以下で生活をしているのではないかといわれるミャンマーを考えると、通っている子ども達がどれほど裕福な家庭の子ども達かが分かります。見学させて頂いている間、子ども達が授業を受けている光景を何回か目にしました。小さな子ども達のクラスは、外国人の私達が珍しいようで集中が切れている子もいましたが、どの子どもみんな楽しく学んでいるように見受けられました。やはり国は違えど学ぶことの喜びは共通しているのだと実感した瞬間でした。

  見学終了後、給食室でコーヒーを頂きながら、お話を伺う時間がありました。東南アジアの独特のなまりがある英語をしゃべり、にこにこと微笑みながらミャンマーで自分が行っている教育活動について熱く話して下さいました。そのお話の中で「自分はミャンマー国内の50の僧院学校と関係を持ち教育支援をしている」とおっしゃっていました。そして、KoTarさんの学校訪問後、私たちはその中の一つの僧院学校に向かうことになります。

 

■尼寺の僧院学校への訪問

  KoTarさんの学校訪問の後は、彼が支援している僧院学校の一つに見学させて頂きました。韓国のNPOの援助より新しい校舎が出来る予定だったそうですが、お金が送られてこなくなり工事が中断している建物がありました。普段使っているトイレを見せて頂いたのですが、清潔なトイレを使っている私達日本人からしてみたら、少し用を足すのをためらいますが、ここで生きていくためには大切なトイレです。また、尼寺の方々からミャンマーの僧院学校を取り巻いている状況をお伺いすることが出来ました。子ども達の進路、先生達の給与と生活状況、学校の運営状況などなど。支援がないと学校を運営していけないと言った尼の先生達からの顔から貧困の問題の深刻さが分かりました。僧院学校の子ども達に少し会うことが出来たのですが、言葉はお互い通じなく文化は違えど、交流するには笑顔だけでも十分通じるのだなと感じました。(有廣悠乃)

■ダマティディ僧院学校教員WS

 

 3月1日土曜日。車に乗り込み、ダマティディ僧院学校へ。教室に入ってみると、白の服に緑色のロンジーを着た女性教員の方たちが迎えてくださいました。集まったのは、ダマティディ僧院学校の先生方5人と2日目に訪問したドリームトレインの先生方4人、通訳のイーモンさん、そしてEN Lab.メンバー。インタビューをしながら利き手の逆手でパートナーの似顔絵を描く、というアイスブレイキングで荒木による教員ワークショップが始まりました。お互いの共通言語である英語で会話をするペアや、単語帳を駆使してミャンマー語で会話をするペアなど、ペアによってコミュニケーションの取り方は違うものの、誰もが利き手ではない手で描くことに苦戦しながらも、その難しさを楽しみ、場はどんどん明るくなっていきました。このワークで、利き手ではない手で似顔絵を描くという普段出来ないと思ってしまっていることでもやってみるとできる、つまり頭で考えるより経験することが大事ということを学ぶことができました。

 その後、日本の小学校で実際に行われた算数の授業の映像や、Learning Pyramidから、授業の中で、【listen(聞くだけ)・listen&see(聞く&見る・書く)】と【dialogue(話し合う)・experience(実際に経験する)・teach each other(お互いに教えあう)】の両方がバランスよくあるべきということを学び、「(教師が話し、生徒が聞くだけの)授業をする度賢くなっているのは先生。」ということを聞き、大きくうなずくダマティディ僧院学校の先生。 ワークショップの終わりに、教科に分かれて経験を取り入れた授業案を考えました。通訳のイーモンさんに助けてもらいながらも、日本人とミャンマー人合同のグループになり、数学・英語・理科の授業案に取り掛かりました。自分が今までしていた授業内容を意見交流し、新しく授業方法を考えていく作業をいきいきとする先生方。このワークショップ自体が、【listen(聞くだけ)・listen&see(聞く&見る・書く)・dialogue(話し合う)・experience(実際に経験する)・teach each other(お互いに教えあう)】のLearning Pyramidをすべて取り入れており、授業案を考えるという経験をすることで、より経験することが大事ということを学べたように思います。

 

■ダマティディ教員WS後

 ワークショップが終わり、学校のまわりを散歩していたメンバーたちは、目がキラキラした少年少女に出会いました。次第にお母さん、おばあさん、ご近所さんが増えていき、私たちはあたたかく迎えてもらいました。「バナナの持ち方逆!!」とお母さんに訂正されたり、少年少女からおばあちゃんにいたるまで色んな方々のあたたかい笑顔にふれたり、メンバーはプチうるるん滞在記を堪能しました(笑)

 

■民族村

 家族と離れて昼食も済ませた私たちが次に向かったのは、NATIONAL RACES VILLAGE UNION OF MYANMAR(国立民族村)。ここは、パゴー川岸の広大な土地に作られた、ミャンマー各地の民族文化と観光名所を紹介するテーマパークです。ビルマ、シャン、モン、カチン、チンなどのミャンマー国内に暮らす民族別に住居や暮らしぶりが再現されています。レンタル自転車をゲットし、園内へ。ほとんどの民族の住居が高床式であり、日差しが強いミャンマーでも暮らしやすいだろうなと感じるほど、住居の中はひんやりと涼しかったです。寝室なども再現されている住居や民族衣装の展示もありました。

 

■MIS(ミャンマーインターナショナルスクール)のお祭り

 ミャンマーにあるインターナショナルスクールのお祭りに参加しました。日本、韓国、カナダ、アメリカ・・・など各国の担当に分かれた子どもたちが、その国の料理を提供していました。日本は巻きずしでした。せっかくの機会なので、インターナショナルスクールの教室を見学しました。教室はとてもポップで、絵が飾られていたり、滑り台やブランコがあったり。私たちが見学したのはおそらく低学年か未就学児向きの教室だと思いますが、教室にいるだけで英語が勉強したくなるような雰囲気でした。(佐橋那帆子)

■ピンニャテッパン僧院学校教員WS

 ミャンマー最終日です。今日はピンニャティッパン僧院学校へ訪問、そして教員ワークショップをしました。ワークショップの内容は3/1ダマティディで行ったものと同様です。ピンニャティッパンでのワークショップには、別の僧院学校の方も含め15名ほどが参加しており、積極的な姿勢が印象的でした。

 今回は、私たちEN Lab.からミャンマーの教員に、質問をいくつか投げかけました。以下は、その解答です。

 

・授業は1時間×7コマ(休み時間は10分)

 

・休み時間に子どもはお喋りやカードゲーム、ビー玉遊びをしている

 

・学校は一部制・宿題は基本的になし・学校での指導法について、親は先生に任せている

 

・成績は基本テストでつけるが、欠席した場合は普段の様子で判断する

 

・先生の配属方法は学校によって違う(教科別、学年別等)

 

・授業の際に心がけているのは「どう指導すれば子どもたちは理解できるかと考えること」

 

・教員を続ける理由は、「子どもの成長にやりがいを感じるから」

 

・教師をしていて嬉しいのは「子どもが理解してくれた瞬間」「教えたことを分かってくれた瞬間」

 

 個人的に衝撃だったことが1点。「教員は家庭を養えるほど稼ぐことができない」のを理由に、ミャンマーでは男性教員は希少であるということです。

 

 その後、日本人墓地へと向かい、拝んできました。快晴で、風はおだやかでした。日本人のミャンマーでの戦死者が約20万人いるそうで、驚きました。お昼ご飯を食べ、散歩を最後にしました。祝日のためShoppingはできませんでしたが、の~んびりとまちをぶらぶらしました。(岡賢志)

■ダマティディ、ピンニャテッパン僧院学校教員WS 補足

 私が過去5年間にわたって行ったさまざまなワークショップの中で、もっとも現地教員の行動が変わったと感じているのが、日本の教育現場、とくに日本の教師の授業スタイルを実際に見てもらうものでした。日本の教師がいかにして学校現場で教える知識と、子どもたちが生きている世界を結びつけようと努力しているか、そのためのヒントが授業実践の中に隠れています。

 たとえばある滋賀の教員の社会科の授業。収入と支出を学ぶこの授業では、教科書に載っている予算案をほとんど用いずに、自分の住んでいる街の予算案を子どもたちに見せるところから始まります。さらに、学校の予算も見せてしまいます。子どもにとっては教科書に載っている誰が住んでいるかもわからない地域の予算よりも、よほどリアリティがあるものになりますね。

 また和歌山の小学校、算数の授業。お金の出し方を考える授業では、いろんな出し方をゆっくりとみんなで考えた後に、なんと子どもたちがお店屋さんごっこをはじめます。その中で実際のお金の出し方を学んでいきます。

 京都の小学校では、教室空間そのものが工夫されています。目的に応じた机の配置、言葉の使い方、子どもたちの作品など、きれいに配置されています。また国語の授業では「話し合いの進め方」を学んでいきます。音楽会で保護者に喜んでもらうためにはどうすればいいのか、なんと小学2年生が話し合いを進めていきます。

 私は「これが日本の普通の授業風景です。先生も普通の先生です」と現地教員に説明していますが、実はこれ、半分正解で半分嘘です。普通の先生ではありません。私が選んだ「優れた」教師です。でも優れた教師であると説明してしまうと、現地の先生は必ず萎縮してしまい(「必ず」なんです。あまりに現実離れしていると彼らが感じてしまうと、すぐに無力感に包まれてしまいます)、効果がなくなってしまうんです。

 私の教員WSでは常に、学校で学んでいることが現実世界とリンクするように、なおかつ学びそのものが楽しいものであるようにと展開されていますが、なかなか具体物がないと伝わりませんでした。日本の教員の姿を見ながら、適宜解説を入れ、質問を受け付け、さらに分析していく、この方法が、現地教員の授業に対するイメージを変えることに一役買っていることは間違いないでしょう。(荒木寿友)

 現地での5日間の活動を終え、メンバーそれぞれがミャンマーの今を感じ、自分たちには何が出来るのだろうかを真剣に考える時間になりました。 ミャンマーの教育はまだまだ教育環境も、教育方法も発展途上にあり十分であるとは言えません。

 しかし、今回のツアーでは子どもたちへの愛に溢れた先生達や素直で純粋な子ども達に出会う事ができました。これからのミャンマーの教育の発展において、彼らの存在は可能性そのものです。しかし現状では、私たちの支援にも課題は残ります。1つは現地の先生方に年に2回しか現地に行って支援をできないことです。継続的な支援を志している以上、現地に入って長期的に支援を行うことが望ましいと考えます。年に2回の支援では、先生方への丁寧で細やかな指導は難しいのが現状です。

 現状では、現地の先生方の主体性に頼る部分が大きく定期的な指導やフィードバックができていない事も課題としてあげられます。その点で、これからはSNSや、Mailなどを駆使して現地の先生方の悩みや葛藤に対して共に悩み、解決策を提示していくことが可能になると考えています(ミャンマーのネット事情は年々改善してきており、その方法は可能になってきています)。

 これからの支援として、現地職員の専門技術向上の為に、現地職員を日本の教育現場に招いての研修等の企画も考えております。

 このように、私たちの支援にはまだまだ課題が残りますが今後の支援活動では、現地での支援のさらなる充実と日本にいてもできる支援を工夫していきたいと思います。 EN Lab.ではミャンマーの大人と子どもがともに手をとって素敵な未来を作れるように、教育支援を続けていきたいと考えています。今後の支援活動についてまたご報告させて頂きますので、今後ともEN Lab.をよろしくお願いします。 (石橋智晴)

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